自意識過剰とぜったいに思われると思うんだけどこういうときのために煙草を常備している私は女だ。
スカートの丈は短すぎずセーターの胸元は開きすぎないのに、飲み会で外の空気を吸いに行くためだけに煙草を持ち歩いている私はちぐはぐな女。
夏のそれは感傷的になりすぎてしまう。それというのは「煙草失敬(煙草を理由にその場を失礼するという意味の造語)」のことだ。
みんなの騒ぐ声と油の匂い、グラスのぶつかる音と聴こうとしないと聞こえないビージーエムが一気に私の身体からまとわりつくのをやめて離れてしまう、それが煩わしいと感じて煙草失敬したはずなのにそれを寂しく感じてしまうのはまだ暑い夏の、どうしてか夜も更けた空気のなか、ひとつふたつ吹く風に終わりを蜃気楼のように敏感に妄想的に、キャッチしてしまうからだろうか。
失敬するのに使うだけの煙草の賞味期限が、見るともなく見たそれが、切れているのに気づいて、女としての賞味期限だって切れちまうのかもしれねえなと、ぐろいことを思う、自分に。
根性焼きをしてやろうかと思って一本火をつけた。
「先輩が吸ってるとこ初めて見ました」
斜め後ろから急に聞こえた自分への言葉に肩が跳ねる。
見られた。
そう思っちゃったのはどうして。
煙草を吸う女についてこの後輩がどう思っているかなんてほんとうに関係がないほど彼はただの一後輩なのに、ほんとうにそうなのに、なんだっていつでも男にどう見られているか気にしてしまうのだろうか。
冬の煙草失敬は清廉で好きだ。
意外なほど寒い戸外を、共有する相手を居酒屋のなかに探さない自分でいたいのだ。
努力しなければ、女であることを念頭に置いてしか簡単に考えられなくなっちゃう叩けば音のしそうな軽い頭を蹴り飛ばしてやりたいけど残念ながら自分ではできないので断念。
たくさん勉強してものを知って大学を出てもこんなふうに考えちゃうとしたら地獄だな。いっそのこと卒業したくないくらいだよ。
コートまで油臭いのがわかる冬のくうきのなか、また私は煙草に火を点けた。それだけで咽せてしまうまっさらな肺を持っている自分に笑ってしまう。
おわり