大好きなドラマ『アンブレラ・アカデミー』は、きょうだいの話だ。
言うまでもなく完全に隅から隅まで長女気質の私は、きょうだいを持つ者に多いと思うが、きょうだいものが好きだ。
SFも、さいきん好きになってきた私にとって、世界の滅亡に対峙する7人のきょうだい達の話なんて、大好物だ。
まあ、それはそうとして、私は今、コンビニおにぎりを食べながら、あるシーンを思い出していた。
そこに出てくる長男は、ストーリーのなかで、月での生活を余儀なくされる。彼は長期間、月で過ごした経験を持つキャラクターだ。たまに断片的に、月での生活が描写される。
限られた居住空間、飾られるきょうだい達の写真、宇宙服を着た月面での散歩やガーデンチェアとチル。
しかしやっぱりもっとも私の興味を引いたのは、食べ物だ。
「Soy Paste」と書かれた、パウチに入った液体状のなにかを彼は啜る。床には、同じくSoy Pasteと書かれた箱が大量に積まれている。
大豆は栄養が豊富だし、宇宙食として優秀なのだろう……。
次に思い出したのが、『チャーリーとチョコレート工場』。
チョコレート工場に招待された、選ばれし登場人物のひとりに、年中ガムくちゃくちゃガールがいた。なんでも、ひとつのガムを長く噛むことにおいて何らかの賞を狙っているそうだ。
そして、その子は工場で開発中のガムを、もちろん勝手に口に入れる。チャーリー工場長はやんわり止めるけれど、異様に競争心の強い女の子はそんな制止など聞き入れず、「フルコースを体験させてくれる」というガムを噛む。
コース内容は忘れたけれど、女の子が噛みすすめるにつれ、口の中でさまざまな味が広がる。「いま、熱いスープが喉を通ったわ!」「ポテトの味がする!」など女の子は感嘆する……、そのあとにどうなるかは観た人のみぞ知る……。
そして私のおにぎりに入ったシャケ。
それは、一昔前のおにぎりの具たる鮭よりも、はるかに鮭の見た目をしている。ほぐされ方もラフで、火で炙った香りもほんのりする、食感もある、シャケ。
しかしこれはほんとうにシャケか?
今現在、ほんとうのシャケだったとして、この先、これがなんらかのものに取って代わられる可能性は高い。
たとえば欧米社会で奨励される昆虫食とか。べつに、見た目さえあのグロテスクな迫力を持っていなければ、私たちはあれを生活に浸透させられるだろう。佃煮なんてぴったりだ。細かく潰して佃煮にすれば、なんの佃煮かなんて気にする人はいなくなる。
たとえば最新科学でつくられる人工肉。遺伝子をいじりまくってつくる牛肉、それに続いて豚肉も魚肉も、工場で脳みそを伴わず誕生し、出荷される日も近いだろう。というかもう実現されているのだろう、私が知らないだけで。
たとえばカナダでよく見た「ソイミート」が、クオリティを上げ安価で出回れば、高い肉類よりもそちらを選ぶ家庭は多くなっていくだろう。
日本人でいえば、おにぎりの具なんてそれっぽい味さえしていれば食べられる。
お肉のエキスが入ったふりかけの、まぶしたご飯を食べて喜ぶことができるのだから私たち。
本物なんてなにも要らないのだ。それっぽい味、それっぽい食感、生きていくだけの栄養があれば。
本物の食材で作られた料理は、記念日や特別なデートのための贅沢品になるのだろうか。
世界的なスターしか、ナイフとフォークでフレンチをつつくことができなくなるのだろうか。
砂漠化する世界で、缶詰に入った人工物を、VR機械をつけながら摂取する人々。もちろん、映像では、机の上に涎の分泌を促すような豪華で素朴な料理が並んでいることになっている。
ああ!なんてディストピア!どきどきする!ディストピアって大好き!!
みんなが現実を否定して、一部の富裕層が現実を見極めそこに商機を見出し、そして取り返しがつかない現実のなかで用意してもらった商品としての虚構のなかに生きる、
世界がもうすぐくる。