正門のソロコン【30/31】

 

 

 

私は、ジャニーズが好きだ。

ジャニーズ事務所が好きなのではない、事務所を好きなオタクはほとんどいない、変な話だが。

ジャニーズという、ジャパニーズエンタメにおける一個の概念が好きなのだ。

 

しかし、そういう理想の観念のようなものが、ふわふわみんなの頭上で、一人歩きしている事務所であるからこそ、危険もあるのだろうと思う。

まだ年端も行かない小さな男の子たちに、夢を見させ、ダンスレッスンや舞台稽古をやらせるのは、いくらエンタメのためといえども、ちょっと気味が悪い。

しかも、彼らが自主的に活動しているのだから尚更だ。

科学的に、子どもの脳は物事に優先順位をつけたり、深く考えたりすることができないと証明されている。そんな固まりきらない脳みそを持つ子ども達に、自主的に盲信的に、大人の監督下と言えど、「売れる売れないは自己責任」という環境で、なにかを頑張らせるのはちょっと恐ろしい。

ほとんどカルトだといえるだろう。売れ(てい)ない男の子たちの青春や、他の経験、人によっては成人してからの若い時間数年分は、搾取されているに等しい。

誰によって? もちろん、事務所によって、ファン達によって。

 

それなのに、そんなことはわかっているのに、ジャニーズという概念はキラキラとあんまりに輝いている。

 

今年の2月に、関西ジャニーズJr.の正門 良規のソロコンサートに行った。友達が誘ってくれたのだ。彼の所属するAぇ! groupを、私はゆるく好きなので、とても楽しかった。

でも、ほんとはそんなに楽しい経験になるとは思っていなかった。だって、いちばん好きなわけでもない、グループのなかでも面白いことはあんまり言わない、かっこいいけれど目立たない、同い年の、男の子のステージだ。

ジャニーズJr.は基本的にデビューした先輩たちの曲を歌うのだが、私はジャニ曲に詳しくない。じっさい、ソロコンでは知らない曲ばかりを聴いた。

それでも、楽しかった。

ひとり、あるいは年下のJr.の子達と絡みながらのMCだって、めちゃくちゃ面白いわけでもなかった。

彼がひたすらお手振りをする時間や、彼が目についたお客さんについてコメントする時間や、楽器をセットする時間など、無音のときもあった、でも、楽しかったのだ。

 

それはひとえに、正門くんがいっさい、自信を崩さなかったからだろう。

常に笑顔を浮かべ、いっさい不安そうな表情を見せず、あたふたもせず、面白くないこと言っちゃった〜って凹んだ姿も見せず、とにかく、完璧にアイドルだったからだろう。

 

私はもう完全にびっくりした。

異例の長期間、ひとりでひたすらステージをやりきった彼は、まじでめちゃくちゃすごいし、その子がデビューしていないのだ。まだJr.なのだ。異様だ。

もちろん演出や構成、膨大な数の大人たちがソロコンには関わっているだろう。すべてお膳立てされて、あとは練習して舞台に立つだけ、の状態だっただろう、それでも、彼のソロコンで、舞台に立つのは彼以外にはあり得なかったのだ。

ぜったいに逃げられない。自分のためにお金を出して、自分だけを観るために楽しみに来たお客さんを、失望させることなんて許されない。

 

尋常じゃないプレッシャーのなか、彼がやり遂げたのは、やはり彼がジャニーズだからなのだろう。

小さい頃から、ジャパニーズエンタメのトップに君臨する事務所に所属して、約束されない将来に向かって、自分はしっかりやってきたという自負が、彼に、他の彼らに、素晴らしいステージを演じさせるのだろう。

 

世間とは隔絶された場所で。

衆人環視のもとで。

異様な闘志に火をつけられて。

ギラギラと輝く夢に向かって、教育をされる、特別な子どもたち。

 

コロナ禍でとくに声も出せず、マスクで表情もわからない、真剣な目でただ舞台を見つめる女の子たちの夥しい数の目に相対して、怯まずにステージに立つなんて。

教育の賜物だ、でも、その、カルト的な仕組みはやっぱり、気持ち悪くもぜったいにある。

そして気持ち悪いのはタレント個人個人ではなくて、やっぱり、事務所なのだ、ということになる。ほんとに悪いのは、元凶は、ファンとタレントその他世間全員が見る、本当にはどこにも存在しないジャニーズという幻想そのものなのだろうが………。