まじの話

 

 

恋をしているかもしれません。

 

でも、恋というのは、「お? いま、恋をもしかしたら、しているかもしれないな」と思ったときにはもう落ちているものだとは思います。

その常識に則ると、すでに真っ逆さま落下の途中、なのかもしれません。

 

どうして不確定なのかと言うと、対象の人物にまだ会っていないからです。

古い知り合いで、メッセージのやりとりだけをしています。

 

しかしもって、

もう、毎回、返事が楽しみで、通知をオフにしているインスタの画面を開くたびに、ドキドキして、右上にメッセージランプが点いていれば、飛び上がって喜びますし、

内容を読んでは噛み締めて、でも読むのももったいないし、ずっと大好きな小説のクライマックスを読み進めるように、もっとこの人からのメッセージを読みたい、ぜんぶ読んでしまいたくない、でも読みたい、と葛藤して熱くなりますし、

会うことが決定しているのですが、そのときの目の感じや笑い方を想像してはたまらない気持ちになりますし、

もう、ずっとその日のことを考えてしまいます。

そしてその日のことを考えれば、目頭が熱くなって、喉のあたりが、くんとして、目が潤んでしまい、眉が下がり、ため息が出て、心臓がここぞとばかりに存在を主張してきます。

 

ため息がまた、出ます。

 

でも一方で、とてもじゃないけど信じられない気持ちがするのです。

私は彼を、何年間も、空想のなかで思い続けてきました。

彼ならすべてを叶えてくれると、私の頭のなかで勝手に、白馬の王子様に見立てていたのです。会いに行きもしないくせに。何年も何年も会っていないくせに。

その彼に、ふとメッセージを送れば、それが何ラリーも続き、ついに会うことにまでなり、会うことに対してお互いに、楽しみだなんて何度も、言い合うなんて。

この身に起こることとしては、もっとも信じられないことでした。考えられなかった。そんなこと、あり得ないと思っていた。やべ、泣きそう。

 

加えて、彼は私の大好きな言葉を使うのです。まるで知っていたかのようです。

私は、「もちろん」という言葉が、返事が、好きです。

「〇〇してもいい?」「〇〇に行ってもいい?」「〇〇を注文してもいい?」

さまざまな欲望に対して、

「もちろん」

と返してくれることよりも、コミュニケーションにおける幸福はないと信じています。

(自担ももちろん、と言います。もちろんもちろん、と二つ重ねて使うときもあります。だから私は自担を好き)

そして彼は、なんと、もう2回も、「もちろん!」(なんと、びっくりマークつき!)と返してくれました。

もう、ひとたまりもありません。また泣きそう。

 

それに、質問をしてくれます。

私はもちろん(もちろん)彼を知りたいので、質問を重ねますが、それに対して、彼も質問を返してくれるのです。

この奇跡!!!

彼も私を、形式上とはいえ、知りたいというポーズを、とってくれるという奇跡!

こんなことがあり得るのでしょうか。どんな些細なやりとりのなかの話題にも、彼はなにかしらのアクションを返してくれます。

こんなに優しい人を私は知りません。

どうして私に優しくしてくれるのか、理解ができなくて恐ろしいです。かろうじて、嬉しい気持ちが勝っているだけで、恐ろしさは、かなりあります。

 

それに、細かなことをとても、説明してくれます。

この日にご飯に行けない理由、朝早く起きる理由、どこそこに行く理由、何かを好む理由……。

すべてが私を嬉しくさせます。ひとつも自己顕示的ではない、優しい説明。はあ、泣きたい、ゲエ吐きそう。

 

それにそれに、言葉遣いが優しいのです。

ひとつひとつの言葉を、乱暴に吐き出したりしません。ちゃんと考えて、柔らかい語尾で書いてくれます。

たまらなくなります。すべてから、彼の優しさを受信してしまい、昔の印象(優しくて弱いものいじめを許さない)と彼が遠く離れていないことを実感するのです。

 

それにそれにそれに、リスペクトが見えるのです。

私の発言に対して、肯定をしてくれます。

 

それにそれにそれにそれに、ちゃんと自分に恋人がいないことを匂わせてくれます。

本人の口からしっかり聞くまでは、私は、信じないけれども、少なくとも、自分がいまそういう相手を持っていない、ということを匂わせてくれます。

 

こんなにメッセージを重ねて、知りたい気持ちと知ってほしい気持ち、ずっと話していたい気持ちのままで突き進むと、じっさいに会ったときに話すことがなくなるんじゃないかと、心配になります。

心配になるから、返信の頻度を減らしてみようかな、質問を減らしてみようかな、と少しそちらにハンドルを切るのですが、無理なのです。

知りたいし、繋がっていたいのです。

彼から返事がたくさんくると、嬉しくて仕方がないのです。

 

 

 

そうです。

ご覧のように、だめです。

たまりません。

終わりです、もう私の人生、終わりかもしれません。

身も背もなく恋をしてしまうかもしれません。

会ってしまえば、すべてを投げ打ってしまうかもしれません。

好きになってもらえなくても、好きになってしまって、ぜんぶしっちゃかめっちゃかになってしまうかもしれません。

 

こんな状態のこと、なんて呼ぶかわかりますか?

私は、わからないのですが……。

実際に会っていないので、恋にはまだ落ちていないと思うのです。なので、恋ではありません。

恋の前に、みんながこんな状態で、街を平気な顔して歩いているのだとしたら、みんなはすごすぎます。

私はずっと眉を下げ、苦しい顔をしてしまいます。

 

ドキドキしてしまいます。

また彼から返事がきているのを見てしまいました。

何が書かれているのでしょうか。

開くとき毎回、失望を覚悟します。私を引き裂くような言葉が書いてあるんじゃないのかと。

そうしないと身が持たないのです。

とりあえず、会うまでダイエットを頑張ります。